黒くぬめる夏の夜に
恋を語らいましょうか
「きれい、きみは、おさかなさん」
極彩色ごくさいしきの鱗うろこ、美しい
歯を剥き出して嗤わらう星
蘭虫らんちゅうのように泳ぐ
さながらその鋭さは
「せいきんせきのよう」
向こう岸
靆たなびく薄衣の色に恋焦がれた
「はやくあちらがわへむかわないと」
文披月
「ひとのつづる、いのりたちが
かわにしずみ、ほしになるのさ」
蠢うごめきながら増える星
笹の葉の端に飾る祈りが
この川の隅々にまで届いた
「あちらがわへむかいましょう
あなたとまたはなせるのならば
このいたみもこのくるしみさえも」
こうして
「さかな」は
川を泳ぎだした
鋭い星々の隙間を
(泳ぎだした、鋭い星々の隙間を)
泳ぐ最中星々は、
さかなの体を引き裂き、鱗は取れ、血溜まりの、閉じぬ目
(泳ぐ最中、鱗は取れ、血溜まりの、閉じぬ目)
彼女は何を犠牲にしても、彼に会いたかった
(何を犠牲にしても、あなたに会いたかった)
幾度と無く襲い来る苦痛の中でさえも、彼を愛していた
(この苦痛の中でも、愛してる)
でも、これは自ら命を絶った死人が故の悲しい宿命だ
(でも、これは死人が故の悲しい宿命ですから)
彼女は「天の川」という「境」を越える事が出来なかった
(境を越える事は出来なかった)